当てにならない映画メモ

つまらない?見方を変えれば面白い

LOGAN/ローガン

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ヒーロー映画の枠を飛び越えて完全に西部劇になっていました。

荒野を全速力で走り抜けるリムジンはまるで「駅馬車」に見えるし、年老いウルヴァリン扮するヒュー・ジャックマンがまるで「許されざる者」の年老いたガンマンのクリント・イーストウッドの風貌にそっくりで、「シェーン」の台詞がラストを飾ります。

トランプ政権への批判のせいかミュータント=マイノリティーが弾圧されていく姿をかなりシリアスに痛々しく描いており、家族のいない貧困老人(プロフェッサー)の介護の悲惨な現状もあり、社会派な面も持ち合わせていました。

子役のダフネ・キーンは「レオン」のナタリー・ポートマンには敵わなかったものの将来を期待させる存在感がありました。ストーリー的にどうしても「レオン」と比較してしまうのですが、敵のボスがゲイリー・オールドマンのような迫力がなかったのが惜しいところです。

808

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ローランド社が開発したシーケンサーの一つであるTR-808を語り尽す音楽的マニアックな映画です。電子楽器に触れた経験がない人にはお勧めしません。ピコ太郎とかMCハマーみたいな音と言えば分かりやすいか。

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日本人の開発したシーケンサーがアメリカの黒人の手にわたりヒップホップとハウス、マイアミベースというジャンルを生み出し、イギリス人の手にわたりビッグビートドラムンベース、トランスを生み出したというのだから日本人として誇らしいです。壊れたトランジスタが手に入らなくなり製造中止になり、世界に一万台しかないのにも関わらず、エレクトロミュージックのルーツになった怪物なのです。

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フィル・コリンズマーヴィン・ゲイのTB-808への傾倒ぶりに驚いたのとマーヴィン・ゲイのTB-808をたまたま中古で手に入れたソウルワックスの驚きぶりには笑えましたね。808 stateファットボーイ・スリムゴリラズビースティー・ボーイズデヴィッド・ゲッタという豪華な出演陣に圧倒されました。

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映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ

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「ぼくたちの家族」のリアリティーには心打たれましたが、またしても石井裕也監督が傑作を生みだしてくれました。池松壮亮が片目を失明している青年を演じているのですが、それはつまり情報に溢れすぎて物事の本質が隠されてしまって物事の半分しか理解できない日本社会の暗喩であり、共有情報を当てにするあまりアイデンティティーが欠如し慢性的な集団ヒステリーを潜在的に抱え込んでいる社会への漠然とした不安の象徴でもあります。貧困に陥る若者や外国人労働者の問題にも触れています。

もし、これを小説にしたのならかなり厭世的な気持ち悪い作品に違いありませんが、原作が詩集であるためかドライでクールなハードボイルドタッチな映画になってました。また、詩のフレーズが何度も繰り返されるうちにその意味に直感的に気付いていけるのが心地良かったです。結末はすがすがしかったです。三十代前半の監督が日本映画の水準をまた一つ上げてくれました。

「ぼくたちの家族」では当時55歳の原田美枝子認知症が発症した途端に魅力倍増する母親役にノックアウトされましたが、今回は原田美枝子の娘で映画初出演&初主演の石橋静河が見せる都会慣れした女性の引きつった笑顔が堪りませんでした。既に池松壮亮を上回る貫禄がありました。あまり華がないが抜群の演技力を持つ安藤サクラ系の女優が増えるのは良い傾向です。

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基本的に映画では泣きませんが痛いほどに迫りくる共感によって涙が一滴流れ落ちてしまいました。今作の障害者にとっての本当のバリアフリーとは何なのか?という問いかけから、映画のあり方、人間の尊厳に迫っていくアプローチは面白いなと思いました。視覚障害のある人達が映画の音声ガイドの表現方法を語り合うシーンをずっと見ていたくなりました。

支援をしてもらっているという気持ちから自ら本音を飲み込むことを強いてしまう生活は本当に苦しいものです。見抜くことが難しい本音を汲み取り作品にする熱意に感服しました。当事者に寄り添った映画がようやく現れ映画に点在する誤った障害者像の見直しが始まるきっかけになるかもしれません。それだけに日本字幕上映が三日間だけというのは残念ですね。。

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「あん」も差別を描きつつ人間の尊厳に迫る試みは見られましたが登場人物のエピソードが断片的で心情の移り変わりが汲み取りにくい印象がありました。その点、恋愛ものは動機も明確で心情の移り変わりがストーリーそのものなので感情移入もしやすくなるわけで、非日常な存在である障害者への理解も容易になります。何かを理解させるには恋愛要素が最も効果的なんだなと再認識しました。

一切の余分を削り落とし尚且つ人の死と真摯に向き合い、男女の愛を超越した深い愛を描いていた「殯の森」が河瀨直美監督作品の中では最も素晴らしい映画ですが、今作で河瀨直美監督が伝えたいことを全て知ることができたような気がしました。

「あん」を経た今作で監督としての熟練度がピークを迎えたと思うので、次作で「殯の森」を超える傑作が生み出されることを期待しています。主演はそろそろ尾野真千子に戻してほしいです。黒澤明と言えば三船敏郎、河瀨直美と言えば尾野真千子です。

マンチェスター・バイ・ザ・シー

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ラ・ラ・ランド」「ムーンライト」「フェンス」と昨年度のアカデミー作品賞ノミネート作品を観てきましたが、脚本賞を獲っただけあり本作が断トツにストーリーが素晴らしかったです。

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兄が亡くなり、突然、甥っ子の後見人になる男の葛藤を描いた映画です。甥っ子の青春を謳歌している街を出たくないと思いと叔父の青春を謳歌したために過ちを犯した過去のある街を離れて甥っ子の面倒を見ていきたい思いのぶつかり合う様が殺伐とせずどことなく温かみがある前半、叔父の元妻の登場により暗い過去が明るみになり状況が一変する後半、そして、全ての伏線が回収されて感動を畳みかけてくるラスト。そこに死してなお兄の弟を想う気持ちが生き続けているわけです。人間関係そのものが伏線というのが面白いですね。完璧な序破急、これぞハリウッド映画の真骨頂。撮影についてはアップを多用しないケン・ローチ風なのが感動を強要させずかえって強い感動を生み出しています。

この映画を企画し実現したマット・デイモンとアフレック兄弟の友情にも感動します。この感動はマット・デイモンとアフレック兄弟共演の「グッド・ウィル・ハンティング 旅立ち」を思い出しました。マット・デイモンの脚本が見事でした。

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大して感情移入できず起伏のないストーリーであった「ムーンライト」が作品賞に選ばれたのはボイコットしかねない黒人へのサービスに加えて反トランプ政権の時勢に乗っかったアカデミー会員の思惑があった気がしてなりません。差別に配慮することは決して悪いことではありませんが、優れた作品に賞を与える原則を崩すことがあってはなりません。ただ、差別のせいで黒人の才能が伸びていかないという現実があるとは否めません。

今年の上半期の洋画は「マンチェスター・バイ・ザ・シー」と「人生タクシー」、「はじまりへの旅」が首位争いしています。次点に「わたしは、ダニエル・ブレイク」「コクソン」。近日公開の「20センチュリー・ウーマン」「セールスマン」「メッセージ」が気になるところです。邦画は河瀨監督、是枝監督、石井裕也監督の新作映画に期待しています。

ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス

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このポスターにJefferson Airplaneを感じました。

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むさいおっさん三人が遂にマーベルに出ちゃいました(笑)

遊星からの物体X」でエイリアンと戦ったカート・ラッセルがエイリアンになり、「コブラ」でゴロツキを徹底的に痛めつけたスタローンがゴロツキ集団のボスに、「ナイトライダー」のデヴィッド・ハッセルホフが熱唱!何なんだこの映画は(笑)

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サントラは音楽フェスさながら。

オープニングでElectric Light Orchestraに興奮。

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ガーディアンズチームは仲の悪いのがロックなFleetwood Macを連想させる。

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Cat Stevensで泣かせる。

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エンディングはParliamentでフィーバー!

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近くの観客のアメリカ人が終始ノリノリで愉快でした~

三里塚

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小川プロダクションのドキュメンタリー映画が全てDVD化したので一つずつじっくり噛みしめて観ています。日本のドキュメンタリーの原点のはずなのにかなり斬新な撮影技法でした。インタビューの嵐でナレーションがほとんどなくあくまでも中立を貫く姿勢がとても良いですね。
成田闘争を題材にしていながら思想の主張はあまり強くなく人間の本質をえぐり出すことに重きを置いているから内容に深みが出てきます。普遍的なテーマが含まれない映画は面白くならないということを思い知らされました。全ての事象は普遍的なテーマを伝えるための媒体なので、普遍的なテーマを見つけ出せるようになるためには、目の前の問題に振り回されず本質を見抜く感性を身に付けることが必要です。