当てにならない映画メモ

つまらない?見方を変えれば面白い

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基本的に映画では泣きませんが痛いほどに迫りくる共感によって涙が一滴流れ落ちてしまいました。今作の障害者にとっての本当のバリアフリーとは何なのか?という問いかけから、映画のあり方、人間の尊厳に迫っていくアプローチは面白いなと思いました。視覚障害のある人達が映画の音声ガイドの表現方法を語り合うシーンをずっと見ていたくなりました。

支援をしてもらっているという気持ちから自ら本音を飲み込むことを強いてしまう生活は本当に苦しいものです。見抜くことが難しい本音を汲み取り作品にする熱意に感服しました。当事者に寄り添った映画がようやく現れ映画に点在する誤った障害者像の見直しが始まるきっかけになるかもしれません。それだけに日本字幕上映が三日間だけというのは残念ですね。。

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「あん」も差別を描きつつ人間の尊厳に迫る試みは見られましたが登場人物のエピソードが断片的で心情の移り変わりが汲み取りにくい印象がありました。その点、恋愛ものは動機も明確で心情の移り変わりがストーリーそのものなので感情移入もしやすくなるわけで、非日常な存在である障害者への理解も容易になります。何かを理解させるには恋愛要素が最も効果的なんだなと再認識しました。

一切の余分を削り落とし尚且つ人の死と真摯に向き合い、男女の愛を超越した深い愛を描いていた「殯の森」が河瀨直美監督作品の中では最も素晴らしい映画ですが、今作で河瀨直美監督が伝えたいことを全て知ることができたような気がしました。

「あん」を経た今作で監督としての熟練度がピークを迎えたと思うので、次作で「殯の森」を超える傑作が生み出されることを期待しています。主演はそろそろ尾野真千子に戻してほしいです。黒澤明と言えば三船敏郎、河瀨直美と言えば尾野真千子です。