当てにならない映画メモ

つまらない?見方を変えれば面白い

恋人たち

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三人の人物のストーリーが同時に進み、最後まで大きく三人が絡むことはないのですが、共通する象徴的なアイテムが場面に表れることで、境遇は違えど心に抱える孤独は本質的には何も変わらないことが伝わってきます。三人の共通点を探すことがなかなか面白いです。

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最初のうちは題名が的外れに思えるのですが、最後でスカイツリーをバックに題名が大写しになったときに恋人たちをこんな風に表現するのもありなのかと感心しました。恋に対する偏見のようなものを持っていたなという気付きがありました。

至らないほんの小さな気遣いが誤解を生むというか、憎しみの出発点は優しさなんですが、とは言え、優しさがあと数ミリでも相手に近づけば相手の救いになるという微妙な距離を巧みに表現しているのも素晴らしいです。空き缶の上の飴ちゃんの構図は感心しました。

個人的には池田良が演じる人の気持ちを逆なでするゲイがある意味で痛快なキャラで見応えがありました。骨折しているのに憎まれ口を叩くのが生意気でムカつきますが何だか憎めないのです。

虐殺器官

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久しぶりにクリーンヒットなハードSFアニメでした。

攻殻機動隊のようなSFとは違い、アンドロイドやサイボーグなどの科学がメインではなく、化学と言語学がメインであるSFはかなり珍しいです。

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ある言葉の並びつまりは文法を繰り返し耳にすると脳の働きが活性化する、もしくは感覚が麻痺することを研究していた言語学者が、ヒトラーの演説を分析することで虐殺することをいとわない人格を生み出す文法を発見してしまうというディストピアな話です。ミルグラム実験(アイヒマンテスト)に近いものがあり衝撃的でした。

サラエボ事件後、長く続いた分離主義・民族主義運動のムーブメントから起きたユーゴスラビア紛争の顛末、ハンナ・アーレントの著者「イエルサレムのアイヒマン―悪の陳腐さについての報告」を知っておくと、このアニメに描かれた恐ろしさがより理解できるのではないでしょうか。理解した上でのラストシーンは、絶句せざるを得ません。。

ただ、ミリタリーものとして観ると、リアリティーに欠ける点はいくつかありますが、細かい点はストーリー展開上の都合ということで目をつぶります。

フジテレビ系列「ノイタミナ」できわどいテーマの原作のアニメ化企画が通ったのが不思議です。「残響のテロㇽ」より格段にアブナイ橋を渡っている気がしました。

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ブラインド・マッサージ

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こんなに精神力を消耗する障害者ものの映画は初めてかもしれません。多くの当事者が全編にわたり俳優として登場する映画はかなり珍しいです。

視覚障害体験というとアイマスクを付けて歩くというのが多いのですが、あれはとても生温い体験なんだなと思いました。視界不明瞭で光の乱反射が激しく感じられ、体感できる世界が狭いというのが映像表現のみで感じられるのは画期的でした。全盲はもちろんのこと、弱視の人もかなり苦労されていることを実感しました。映像表現に関しては当事者と意見交換を重ねて作り上げたそうです。

性的なアクセシビリティの不健全さや、バリアフリーの理念が浸透していない中国での生活の過酷さを生々しく描いていて精神的につらい場面が多いのですが、国民性であるエモーショナルな心のぶつかり合いが何とも心地良いのです。

ラストの物悲しくも幸福を掴み取った最高の笑顔にノックアウトされました。

湯を沸かすほどの熱い愛

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宮沢りえ、さすがの演技力という一言に尽きます。

話の内容は感動的で非常に良い映画ですが、緩和ケアをもう少し取り上げて、社会的なテーマを出すともっと作品に深みが出てきたのかなと思います。ライトなストーリーなので、幅広い年齢層が楽しめる映画だと思います。

配役はベストキャスティングで役者の持ち味は十分に引き出されていました。杉咲花と伊東蒼ちゃんはホントの姉妹のように思えました。松坂桃李の登場も消して悪くはないのですが、親子の掛け合いを楽しんでいたのに邪魔された気持ちになってしまったのが残念です。

アリスのままで

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若年性アルツハイマーを患った言語学者をジュリアン・ムーアが見事に演じています。

中盤の自虐ネタを交えたスピーチが知的でとても"粋"に感じました。終盤、本人の苦悩にいたたまれなくなり観ているのがつらいシーンもありましたが、家族の連帯感に熱いものがこみ上げてきました。

遺伝性の病気のために中絶をするべきか思い悩む長女と遺伝しているか検査を受けず我が道を行く次女の価値観の違いも主ストーリーの良いスパイスとなっていました。

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あん

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莫大な借金返済のために不自由な生活を送る青年と家庭事情のために高校進学を諦めている少女が、ある病気のために長年、社会から隔離されてきた老婆と触れ合うことで、生きる希望を見つけていく話です。

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病気の知識が乏しいと差別が生まれる、日本の右ならえの風潮が差別を加速させるということを考えさせられる映画です。一言で簡単に説明できてしまうあらすじのため展開が遅いのに、シーンが切り替えがうまいのか、飽きてこないのが不思議です。

樹木希林とその孫の内田伽羅の共演を河瀨直美監督が演出しているのも見どころです。女子中学生達の自然体な演技がとても可愛らしかったです。

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希望の国

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原子力を描いた「生きものの記録」「ゴジラ」に肩を並べる名作です。

3.11から数年が経ち原発が再稼働したとある県で再び、震災が起き原発の爆発事故が発生するという話です。そういう設定にすることで、福島の原発事故がたった数年で過去のものになっていることに対する監督の怒りをより強く感じる作品になっています。また、被災地でロケしているので映像の説得力が圧倒的です。

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結婚して間もない夫婦は街を去り、住みついた隣県の街で妊娠している妻はお腹の子供の健康を願うあまり、防護服を着て買い物に出掛けるようになります。これだけの準備をしてもおかしくないのにも関わらず、街の人々に笑いものにされてしまいます。危機感を持つことよりも街の人々と足並みを揃えるのが優先される風潮は、震災被害の風化を促進させる結果をもたらすということを示しているわけです。

「生きものの記録」では、家長が第五福竜丸事件に危機感を覚え、南米に移住すると言いだし、家族に拒絶された挙句の果てに精神科病棟に入れられてしまいます。

妊娠している妻や家長を狂人扱いして、何事もなかったように生活ができてしまう我々の神経の方がどうかしているのかもしれません。国に対する反感を持つのも当然ですが、国策に民意を反映させる選挙に行かないのが一番の問題です。