永い言い訳
上映開始してから三か月経ちましたがかろうじて劇場で観ることができました。
片親を亡してと生活が立ち行かなくなるのを観て、待機児童の問題を早急に解決しなければならないと深刻に考えてしまいました。片親しかいない子供が夢を追えない社会は不公平です。
映画のテーマが是枝監督の映画に似てるなと思っていたらやはり企画に一枚かんでました。西川美和監督の「ゆれる」「ディアドクター」では、誰にも言えない嘘がテーマになっていましたが、初期の作品「蛇イチゴ」に原点回帰したような気がしました。「永い言い訳」も良いとは思いますが、監督の持ち味である「蛇イチゴ」のような辛辣なユーモアがほしかったなと思います。
深津絵里と黒木華が序盤しか出番がなく残念でもったいない気がしましたが、本木雅弘と子役の触れ合いが演技と思えないほど自然体でとても癒されました。竹原ピストルは同じく音楽アーティストのピエール滝と並ぶくらい出演のオファーが増えると思います。
スポットライト 世紀のスクープ
これまで観た洋画のマイベストテンに食い込む大傑作でした。少数の取材班が巨大な権力の闇に立ち向かっていく姿に目頭が熱くなりました。一部の日本のマスコミの報道に呆れてしまうのは社会問題を解決に導こうとする意志を全く感じないからです。敵意を煽ったり、弱者を憐れむ記事よりも問題解決するための力を養う記事を掲載してほしいものです。予告編は映画のイメージが台無しに。。
教会の不祥事を追及する中で同時多発テロが起き、揺らぐはずがないと信じていた平和や信仰が崩れて取材班が精神的に追い詰められていく描写をドライに表現しているのがいいですね。感情の爆発を歯を食いしばって抑え込んでるので妙に日本的なものを感じました。同僚とラブシーンに突入するありきたりの展開が無いというのも良い。脚本の筆が進まないからといって安易に恋愛要素を入れると一気にチープになる映画は意外に多いです。
几帳面な人物の部屋があるシーンを境に散らかり始めるといった習慣の変化で精神に与えた影響の度合いを示すというテクニックを使うあまり、演技から生まれる説得力をあまり感じないのが演技部門の賞を取り損ねた理由なのかもしれません。
といっても、マーク・ラファロの知的でフレンドリーで話の分かりそうな雰囲気は凡人には出せません。あれは凄まじくモテると思う。
もらとりあむタマ子
前田敦子に何の思い入れもありませんが、意外に女優としてやっていくだけの才能はあるんだなと感心しました。元AKB48だという制約があり伸び伸びと俳優としての才能を磨けないのはもったいないと思います。たかがアイドルされどアイドルなわけですから、実力を見くびらないというのが、今回の教訓です。
父親が「早く結婚しろ」などと家庭内セクハラをせず、娘の反抗的な態度を内心楽しむ余裕に娘への愛を感じました。親子関係で大切なのは心の余裕だと改めて思いました。娘は娘で父親に再婚の話が出ると騙されているじゃないかとやたらに心配し始めるのは母性愛なんじゃないかなと思いました。
お互いに思いやってるのに照れてしまい憎まれ口しか言えない親子関係がじれったくて微笑ましく時間を忘れて見入っていました。恋愛というキーワードがないのもかえってリアリティーを生み出していました。予告編とはかなり印象が異なります。
島々清しゃ
登場人物それぞれの過去を回想シーンを使わずに台詞のみで説明しているので、人物の背景をどのように想像するかによって印象が大きく変化する映画だと思います。ハリウッド映画に慣れていると回想シーンがないと物足りなさを感じると思います。個人的には想像の余地を楽しめましたし、琉球音階にかなり癒されました。
観る年齢やその時のテンションによって映画そのものの景色が変わるあたり、この映画を撮った新藤風監督の祖父である故・新藤兼人監督の映画「午後の遺言状」を彷彿とさせるものがありました。
安藤サクラは思いのほか登場シーンが少なく本領発揮とはいかなかったですね。ドラマ「ゆとりですがなにか」「百円の恋」のインパクトが強すぎて、過剰に期待してしまうんです。
過敏な相対音感を持つ苦悩を演じて、フルートの奏法をこの映画のために習得した子役の伊東蒼ちゃんの才能には目を見張るものがあり、今後の活躍に期待しています。まだ、都心部以外で上映中の「湯を沸かすほどの熱い愛」にも出演しているので近いうちに劇場に足を運ぶ予定です。
沈黙-サイレンス-
さすがマーティン・スコセッシ監督だけに話の進め方は上手いなと思いましたが、隠れキリシタンである弱い農民たちが虐げられるシーンが多くて精神的疲労が溜まり、ラストシーンで感動する余裕がなくなってしまいました。途中で席を立つ観客が何人かいたくらいです。
日本の文化の闇の部分しか描かれておらず、世界の人々から日本の文化を過小評価されてもおかしくないので、日本人として苛立ちに近いものを感じてしまいました。
遠藤周作が他の宗教も等しく価値のあるものと考える宗教多元主義をテーマに、「深い河」で描いたガンジス川が全ての宗教を認め人間の苦しみを包み込む寛容さに感動したので、個人的には、日本で映画化されている「深い河」をリメイクしてほしかったです。
園子温という生きもの
「冷たい熱帯魚」を観て園子温監督を知ってからすっかり園ワールドの虜になりました。好きな監督だけに監督の発する言葉一つ一つに一々感動しました。
黒澤明や小津安二郎の映画は個性が強く誰の映画なのか前情報がなくても、また、初見にも関わらずワンシーンで区別ができるけれど、今の日本映画は没個性で何を観ても平均的で誰の映画なのか評論家すら区別がつかないことを嘆きつつ、河瀨直美監督や是枝裕和監督をカンヌ系と定義して国際的な評価を讃えるあたり真面目な映画研究家なんだなと思いました。月刊シナリオ2017年2月号にも同じようなこと書いてあり楽しかったです。
あと、岩井俊二監督の才能に嫉妬してるところが可愛らしかったです(笑)
個人的には、評論家の評価はあんまり高くないけれど原田眞人監督や中島哲也監督も特徴的なので好きですね。
監督の映画哲学にここまで迫るドキュメンタリーは珍しく、制約の多いテレビの枠では楽しめない面白さがありました。このドキュメンタリー映画の監督が大島渚監督の息子というのも興味深く、ドキュメンタリー映画はこうあるべきだ、と園監督に説教受けている場面が印象に残りました。
ヒッチコック/トリュフォー
ヒッチコックの映画は「サイコ」「めまい」「鳥」しか観たことがありません。どの作品もお世辞にも面白いとは言えず、世界的に有名な理由が分からなかったのです。
このドキュメンタリー映画でマーティン・スコセッシ監督やデヴィッド・フィンチャー監督のインタビューを聞きヒッチコックの映画に隠されたトリックや撮影技法の特異性を詳しく知ることができました。お二方は独自の視点を持っているからこそ、記憶に残る映画を撮れるんだろうなと感心しました。
ヒッチコックの映画の面白さを知れたのはもちろんのことですが、様々な監督の話を聞いて映画を面白く観るためのコツを習得することができました。