当てにならない映画メモ

つまらない?見方を変えれば面白い

マイケル・ムーアの世界侵略のススメ

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邦題のセンスの無さには閉口ですが、内容はかなり身近な問題に迫っており、ヨーロッパ諸国に比べて日本は福祉政策がかなり遅れていることに驚きました。移民や人種の問題は別として、アメリカと日本の社会構造はそれほど大きな違いはなく、ある程度の豊かさはあるが貧富の差は広がる一方で、教育や労働の問題は一向になくならない状況です。

学力低下を個人や家族の努力不足として捉える傾向は非常にアメリカ的な発想で、ヨーロッパ諸国では学力低下は国の責任として認識されており、国主体で画期的な取り組みがなされていました。マークシートは考える力が失われるので一切行わない、小学生の集中力を考慮して一日三時間しか基本学習はせず、脳を活性化させ好奇心を持たせるために芸術に取り組む時間を増やす、宿題は出さない、学費無料という方針に変えたフィンランドは数年で世界トップクラスの学力を誇る国になったそうです。

そういう福祉政策の話をたっぷり二時間コミカルな語り口で進み、あっという間に観終えました。日本独自の価値観も大切ですが、他国のアイディアを取り込む柔軟な姿勢が日本には欠けているのかもしれません。

こういう解決策を提示する映画、日本でも作ってほしいものです。解決策を提示しないドキュメンタリーは「だからあなたは何をしたいの?」と突っ込みたくなります。マイケル・ムーアは行動に出るから好感が持てます。

ノー・マンズ・ランド

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ダニス・タノヴィッチ監督の初監督作品にしてアカデミー外国語映画賞を始めとする賞を総なめした名作を見直しました。今月はダニス・タノヴィッチ監督作品が二本も公開されるので復習です。

ユーゴスラビア紛争から始まる動乱に対する反戦が大きなテーマですが、マスコミ批判も含まれているのが面白いポイントです。戦争は辛いから二度と起こさないと言いながら、戦争の火種になる石油製品を買い続けるという矛盾にも切り込む勢いも持ち合わせています。

ラストで核心をカメラに収めようとしないジャーナリストを見て、ニュースを譜面通りに咀嚼することの恐ろしさも感じられます。核心を憶測して物事を考えないように気をつけたいものです。

反戦を売り物にするマスコミとそれを消費するだけの一般人、そんなんじゃ戦争がなくなるはずない、そういう叫びがユーモアの中に潜んでいます。「不干渉も戦争に加担する行為だ」というセリフが重く響きました。

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映画は経済成長を促進する起爆剤

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雑誌「映画芸術」を読んで、日本人は平均で年間一本しか劇場で映画を観ないことに驚きました。韓国や中国は税金対策として大企業が映画産業に多額の資金を投資して、大規模なプロモーションを仕掛け大きな利益を出し更に映画産業に投資する好循環が生まれているとのこと。映画は経済成長を促進する起爆剤になるということを日本の政治家はあまり理解していないようです。

また、特集では物書きやマスコミ関係者が全く映画を知らないことを嘆いており、映画を知らない人がテレビ番組を作るんだからそれは面白いはずないよなと納得してしまいました。対談では「君の名は。」「湯を沸かすほどの愛」の考察がネタバレ全開で面白く感動しました。

f:id:nightvisions:20170303124018j:plainシド・フィールドの本を読むと、日本のアニメやドラマは設定ありきでカタルシスはあるのだけど、テーマが希薄なことが分かります。大友克洋士郎正宗荒木飛呂彦は世界観だけで突っ張る作風ではあるものの緻密に作られているからこそ許されるわけで、設定が上手くない人はテーマで勝負するのが一番、名作への近道ということが理解できます。テーマさえしっかりしていれば市民ケーンのような実在したかのようなキャラクターを生み出すことができるのです。市民ケーン、小学生の時に親に見せられて意味が分かりませんでしたが、歳を取るほどに新しい発見があり好きになり、シド・フィールドの本を読んで分析術を知ることで市民ケーンの魅力の虜になりました。

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タランティーノも時系列ぐちゃぐちゃなのにも関わらずこの法則に当てはまるようで、市民ケーンと構造が似ていると気付いた時の感動は興奮で寝れなくなるほどでした。「映画を書くためにあなたがしなくてはならないこと」は22ヵ国語に翻訳された大ベストセラーなので読む価値は十分にあります。ただし予め「チャイナタウン」を観ておかないとほとんど意味が分からないかもしれません。

素晴らしきかな、人生

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主演クラスの演技派俳優が多いので見応えはありました。話はストレートなんですが、抽象的な概念を擬人化してそれを演じるってアイディアはちょっと感情移入しにくかったです。でも、面白いアイディアなので心理学に少し興味が湧きました。

とりあえず映画の言いたいことを分かりやすく言えば、1人の友人を救おうとしたら自分らも救われた、「情けは人の為ならず」という話です。大人向けの童話ですね。

それにしても、ウィル・スミスとケイト・ウィンスレットだけで十分、良い映画作れるのに何故、こんなに俳優を揃えてしまったのか疑問ですね。

GONIN サーガ

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氷頭を演じるために十年ぶりに復帰した根津甚八の圧倒的な存在感がこの映画を完全に支配していました。主人公の行動の動機になるなどキーポイントになるのは常に氷頭というのが良いですね。話の流れを止めず逆に加速させ更に奇妙な世界観を生み出す効果を持たせる回想シーンの使い方は上手いなと思いました。前作を観てなくてもすんなりと状況を理解できるのも良いポイントです。映像表現の手本になりました。

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病により車椅子生活を送っていた根津甚八ですが、監督の熱心な説得により出演を決断したそうです。この出演の翌年に亡くなりました。黒澤明監督作品に出演した著名な俳優が亡くなっていくのは寂しいものです。仲代達矢もそろそろ。。

父親の意思を引き継ぐ菊池麻美を演じる土屋アンナも役とシンクロする部分があり本領発揮していました。半裸の土屋アンナの風呂場のガンアクションがタランティーノ風で興奮しました。東出昌大は印象が薄いものの丁度良いキャラ設定でした。酸素吸入しながら襲って来るヒットマンを演じた竹中直人も悪くはないですが、やっぱり北野武にやってほしかったですかね。テリー伊藤はミスキャスト、見るに堪えないです。。

ラ・ラ・ランド

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このスケールの大きさはなかなか邦画では味わえませんね。スクリーンが大きい映画館で観るのが良いと思います。最初のシーンを何度も観たいと思うはずです。

ミュージカルといってもダンスシーンがそれほど多くなく、脈絡もなく踊りだす気恥ずかしさはあまり感じずミュージカルに慣れない人にはとっつきやすい内容だと思います。個人的な体験にすこーし重なることもあり、結構、切なかったです。切ないミュージカルは珍しいですね。海外予告の方がしっくり来ます。

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「ラ・ラ・ランド」の監督は「セッション」のデミアン・チャゼルなので、ある程度、モダン・ジャズの知識があると台詞の意味を理解できより楽しめます。バードの愛称で呼ばれたサックス奏者を知っていると良いと思います。また、「カサブランカ」のイングリッド・バーグマン、「エデンの東」のジェームズ・ディーンを押さえておくと楽しさが増します。ストーリーはまあ妥当なラインなんですが、小ネタ満載で映画好きには堪りません。

雨に唄えば」や「ウエスト・サイド物語」の迫力のあるダンス、「メリー・ポピンズ」や「サウンド・オブ・ミュージック」の歌唱力、「マイ・フェア・レディ」の王道シンデレラストーリーには敵わないけれど、まだ三十代の監督の往年の名作への愛を感じられて、監督に「夢が叶っておめでとう」と言いたくなりました。

きみはいい子

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 特別支援学級(特殊学級)を扱う映画は初めて観ました。自閉症の子を演じた加部亜門君の演技は素晴らしかったです。本当に自閉症の子なのかと思いました。自閉症の子と家庭事情に悩む子が平等に描かれている点が非常に良かったです。

迫真の演技で母親が娘を虐待するシーンはリアリティーがあり痛々しくしんどかったですが、このシーンがあるから最後に爆発的な感動が生まれるのです。池脇千鶴の近所のおばちゃん感には笑ってしました。こういう人、確実にいます(笑)

学級崩壊に悩む新任教師、自身も虐待を受けて育ち我が子を虐待してしまう主婦、認知症の兆しがある独居老人と自閉症の子の交流、三つのストーリーラインが直接的には交差せず進むというのは「恋人たち」と同じ構成なのですが、「きみはいい子」の方が社会的なテーマが強くて個人的には好みですね。

印象的なシーンが多く忘れられない名作なので多くの人に観てもらいたいです。